雷鳥に巡り会うまで 後編 事業承継という選択肢

ここ乗鞍高原は一足早くもう完全に秋の空気で肌寒さすら感じるようになっています。上の写真は一ノ瀬園地のオオカエデ(昨年の10月20日前後です)。
夏のピークもあり、少し遅くなってしまいましたが、前編に続いて後編を書きます。

今思えば、ここにたどり着くのは何かの巡り合わせというか、運命だったのかもしれないなと思います。

浅草日光(細かくいうと検討した箇所は他にもあるが)と具体的なところまで話が進んだにも関わらず直前でちゃぶ台をひっくり返し、次がまさに三度目の正直でした。

 会社だけ残って、さあどうしようかと思って、毎日数時間は費やしていた各地の不動産情報の検索。
北は北海道、南は屋久島まで候補はありました。その中で学生時代にアルバイトをしていた上高地の入口のさわんどにも近い、乗鞍高原で温泉付きの物件を目にしました。これはもしかすると、原点の憧れの地に宿を構えることができるかも。と淡い期待もありましたが、この物件、当初は売りでしか出ていなく5000万もする物件でした。もう無理な売買はするつもりはなかったので、不動産屋に確認したところ、賃貸も可能だということで、八方塞がりだった私はダメ元でも、憧れの地を訪れることにしたのです。4月のGW前でした。

ビックリするほど大きな物件でしたが、空き家になってからもう10年くらい経っておりボロボロ。家の中にカモシカの糞もあり、どこをどう修繕するのかもわからない状況で、まあ厳しいなと。ただ、その日は快晴で、まだま雪が残る雄大で美しい乗鞍岳が見え、湯けむり館にも行って温泉に入り、合掌さんでお蕎麦も食べながら、社会人になって自分のお気に入りの場所に祖母と両親を招待し、上高地と乗鞍を満喫した10年前の旅行を思い出しました。


祖母との河童橋(2008年)
乗鞍岳(2008年)

ちなみに、その時宿泊したのは、学生時代にアルバイトでお世話になった原点の宿さわんどの渓流荘しおり絵さんです。学生の時アルバイトをしたのはその前の渓流荘さんでした。

 こちらは本当に全てにおいて素晴らしい旅館です。祖母も両親も大満足。祖母はその後お友達も連れて再びしおり絵さんを訪れたそうです。

 そしてやっぱりこのアルプスの地が自分の原点であり、この地でできたら良いなと思ったのです。ただ、これまでの経緯もあったので、あまり期待はせず、とりあえず検討だけしてみるかと思いました。

 その日は日帰りだったのですが、居候状態の実家の横浜に戻ってから、乗鞍高原を再び調べ、ネットでありとあらゆる不動産情報を調べていくと、複数の物件が出てきました。しかしこれまでの経験上、不動産に出ている情報は、誰も手をつけなかった物件=あまり魅力のない物件という意識が私の中にあったため、ネットなどに公開される前の物件もあるのではないかと、地元(といっても奈川でしたが)の仲介業をやっているところにもコンタクトを取り、良い物件はないかと聞きました。これもまた縁なのですが、その奈川の仲介業の方が、とても良いフットワークでいろいろ探してくれて、ネットには出てない候補をいくつか上げてくれました。

 5月の連休明けでしたが、5,6件の候補が上がったので、両親も連れて1泊の旅行も兼ねて乗鞍を再び訪れ、いろいろ内見をすることにしました。

 1.営業は辞めているがまだオーナーさんが住んでいる元ペンション(温泉なし)
 2.営業を辞めて5年以上経ち空き家の元民宿(昔は温泉を引いていた)
 3.営業を辞めて5年以上経ち空き家のロッジ(昔は温泉を引いていた)
 4.営業を辞めて5年以上経ち空き家のペンション(温泉なし、賃貸可能)
 5.最初の候補のボロボロの温泉旅館
 6.別荘の売り物件
 この候補の中にまだ雷鳥は出てきません。

 1泊の両親も連れた旅行だったので、1日目の物件の内見を終えてから、一の瀬の奥の水芭蕉を見に行きました。GWを過ぎたというのもあったのか、人っ子一人会わずに、両親と女小屋の森、オソメジッケまで行き、水芭蕉を満喫しました。なんて良いところなんだ、と両親も自分も改めて感じていました。

春の一ノ瀬園地

 2日目の内見も終え、やはり乗鞍は素晴らしいと思い、該当物件には温泉はないですが近くに公共の温泉施設があり、賃貸可能でオーナーさんが5年以上賃貸してくれるなら設備の修繕をオーナーさんがやるとのことで、立地もとても良い4番の元ペンションで検討をはじめました。すでに営業を停止してしまっているため、再度旅館営業もしくは簡易宿所営業許可を取るための設備修繕、改築等の計画を練りはじめました。

 さて、憧れの場所ですが、ここで乗鞍という場所で果たしてゲストハウスが成立するのかという懸念があります。
基本的には、都市部か、田舎であれば海外からの旅行者に有名なビックな観光地(モンキーパークのある渋・湯田中温泉とか、白川郷)でないとゲストハウスは成立しないと言われていました。ゲストハウスは単価が安いので、平日もそこそこ海外からの旅行者を取り込み、ある程度高い稼働率を維持する必要があります。ただし、田舎は田舎で固定費(土地・建物など)が都市部に比べて低いというメリットや、そもそも自分らの生活費が低いという部分もありますし、ゲストハウスが観光地と並び、旅行者の目的地になってしまうような特徴あるゲストハウスになれば、話は別です。

では、乗鞍について分析してみましょう。

・乗鞍は有名・人気ではなかった
まず乗鞍高原という場所は日本人でも知る人は少ない。長野県民にですらそんなに知られていない。そして乗鞍高原は海外旅行者の誰もが手にするLonely planetに載ってません。閲覧数の多いJapan guideには掲載されていました。基本的にはLonely planetに載っていないところは海外旅行者の行き先として選ばれません。この観点から言うと厳しい土地。ただし、年配の方や、昔からのファンはいて、そういった方のリピート率は高かった。

・上高地、松本、高山という場所に囲まれている
上高地はLonely Planetに記載されています。日本の山岳景観、日本アルプスという名前で、多くの海外からの旅行者に注目はされている場所。
東京・名古屋・京都・大阪・広島というゴールデンルートから、東京から信州・飛騨・金沢を通るルートが注目されつつあった。という意味で、観光の中継地点として乗鞍は良い立地。しかし、中部山岳国立公園全体の利用者は年々減少傾向。乗鞍はもちろん、上高地も減少傾向にあった。そんな中、インバウンドにフォーカスすれば商機はあるかも。

・上高地は高い
 上高地は宿泊地として魅力がありますが、一般人からすると、高い。
(維持にお金がかかるのはわかりますが、それが観光客の減少につながっていると思います、ただ全体の売り上げがどうなっているかはわかならいので、それが良いのか悪いのかは別問題かもしれません)
 富裕層は泊まりますが、一般人は基本的には上高地に宿泊するのは難しいですよね。これだけ中間層が世界中を旅している中、大自然の中でゆったり過ごしたいという方も多いはず。その観点で、節約旅をしている海外からの旅行者や日本のファミリーなどからも、乗鞍という場所は、乗鞍の大自然も楽しみながら、上高地も楽しめる場所として最適で受け皿になり得ると思った。かつ、そういう節約旅を受け入れられる宿が「当時」この周辺にほぼなかった。海外の世界遺産など有名観光どころで、高級宿しかない観光地なんてほぼ無いですよね。様々な形態の宿泊施設があり、バックパッカーから富裕層まで泊まれるバラエティーがあるのが当然です。そういった意味でいうと、日本はほんとの富裕層が喜ぶ宿泊施設もないと言えますね。

・観光資源としての乗鞍
 実はここが結構重要で、そんなに注目を浴びていないけど、ポテンシャルがあるかどうかなんですよね。
結局、注目を浴びているところは、ビジネスとしてすでに成立していて、すでに競合が多く、競争が激しいということです。乗鞍はというと、観光客の減少で厳しい現状があり、ここで新たな商売をやっていこうと思う人は話を聞く限り稀だった。実際に私がここに来てから「よくこんなところで宿をやろうと思ったな」と地元の方から何度も言われました(笑)
 しかし、私は大きなポテンシャルを感じていました。挙げたらキリがないくらい出てきますが、まずこの大自然、そしてその自然を利用した季節それぞれのアクティビティーがある。なんというか素朴で整備されていない良さ。現代人がそろそろ気付き始めている本当の心地よさを実感できる場所。まさに地上の楽園。私はそう見ていました。さらに周辺観光地も魅力多い。そして3,4泊できる場所、もしくは長期滞在に素晴らしい環境でした。実はこの部分を今後さらに深堀することで、この地域の魅力が激しく増すと思っています。
なので、現状はいろいろ課題があり、厳しいのかもしれないが、やり方次第で上手くいくだろうと思いました。前に戦略についてブログで書きましたが、ストーリーを描く素材が山のようにあったということです。浅草・日光よりもストーリーが次々と湧いてきました。なので私にとって、「よくこんなところで宿をやろうと思ったな」という言葉は逆手にとって、この乗鞍という土地では商機がある証拠だと思ったのです。

このような観点から、乗鞍でゲストハウスという宿泊形態はチャンスがあると思ったのです。

さて、話を元に戻します。
実は平行して、日光での創業を検討して会社を設立する段階で、ガイド業も合わせてやっていきたいと思い、日本山岳ガイド協会の自然ガイドの資格を取ろうと動いていました。その試験対策の講習会が偶然5月下旬に上高地で開かれることになり、5月下旬にまた乗鞍に近い上高地に行くことになっていました。その講習会の帰りに、その賃貸の物件に寄って、乗鞍岳でも登ろうと思っていたのです。ちなみに現在日本山岳ガイド協会の自然ガイドステージⅠとⅡを保有しています。

 4泊5日の講習会の途中だったか、行く前だっか忘れましたが、奈川の仲介屋さんから連絡があり、もう1件表には出ていない候補物件があるというお話を聞きました。その物件は温泉付きで今も営業中だが、誰かに譲りたいと思っているとのことでした。最初は日光と同じパターンで、日光の件もあったので、あまり期待せず、どうせ帰りに乗鞍寄るんだから、とりあえず現オーナーさんにも会って物件を見てみようくらいな気持ちでした。

 講習会後に乗鞍を訪れました。上高地も天気に恵まれやっぱりここはいいなと思ったのですが、5月下旬の乗鞍岳はまだまだ雪がたっぷりで、雪の回廊を見ることができました。最高の天気の中、肩の小屋口から軽アイゼンを履いて登山を開始し、剣ヶ峰に登頂しました。あまりの景色の素晴らしさに、この地に住んで、毎年それぞれの季節にこの剣ヶ峰に訪れて景色を見れたら最高だろうなと思ったことを今でも覚えています。


講習会の荷物も背負いながら、剣ヶ峰に登頂し、その帰りに、そのもう一つの候補物件に立ち寄りました。
それが雷鳥でした。

 古さは否めなかったですが、営業中ということもあり、他の候補に比べると状態としてはよかった。そして何より温泉がありました。
オーナー夫妻も、日光のような威圧的な姿勢は一切なく、人柄の良さそうな方々で、本当は続けたいと思っているけど体調の事を考えるとやむを得ないという気持ちでした。まだ気持ちの整理が付いていないところもあり、訪問した時はまだ条件などは一切決めていない状況でした。会社として経営していることもその時はまだ知りませんでした。私は賃貸の物件で具体的に話を進めていたところもあったのと、この雷鳥は恐らく購入になり、それなりの金額になると思っていたので、あまり期待せず、基本的には検討している賃貸物件で進めていこうと思っていました。

 賃貸物件で修繕や改装の金額も出て、オーナーさんとどういう負担で行くかほぼ決まりつつあった頃、雷鳥に訪問してから2週間後だったでしょうか。仲介屋さんから連絡があり条件を提示されました。
具体的には契約の守秘義務があるので細かいことを書く事はできませんが、会社経営をしていたため、会社の経営権を譲渡する=株式を全て購入するという形の事業承継という形態だったのです。この事業継承というのが、注目すべき点です。
 個人事業で宿を行っていた場合、もしくは会社経営していても物件だけ売る場合(日光はこれ)は、通常はオーナー(社長)が自分が売りたい価格で売り出すことになりますが、雷鳥の場合は、会社の譲渡であり、物件を含むすべての資産は会社の資産であるということです。その資産などから会社の企業価値を算定し、その金額が株式売買の前提となるということです。M&Aの一つですね。実は、前から事業をやる上では営業中の物件によるM&Aが理想だと思っていました。

理由
1.営業中であれば設備・備品がある程度そのまま維持できていて初期投資がそれほど要らない。かつ全ての資産が会社のもの。個人資産のものがあったり、会社はそのままで、資産の一部を売るという形態だと、後々細かい備品の売り買いが生じて面倒(後々それでもいろいろ困難(投資)がありましたが、それはまた別のブログで)。
2.単純な物件の売買だと、その物件の価値よりも、個人の売値が優先されるので、妥当な価格がよくわからない。
3.営業許可などの権利がそのまま引き継げてすぐに営業開始できる。
4.付き合いのある会社・業者をそのまま引き継げる(銀行なども話が通る)

などなど。

 特に2ですね。日本の建物の鑑定評価額では、建物の価値は築年数から数えて20年でほぼゼロです(この考えには賛否ありますが)。
築年数が20年を超える建物(ここでは途中で修繕によって価値を高めている場合は除く)は、基本的にはただ同然となり、土地代だけになりますね。
にも関わらず、多くのリゾート物件は、本人の希望で金額がのっけられます。気持ちはわかります。ご自身が投資して建物を立てたわけですからね。リゾート物件はバブルの頃、億単位で建てているところがほとんどでしょう。それが何もしていなかったら建物の価値はゼロと算定されてしまうわけですから。

 知識のある不動産投資家などは、真に価値ある場合を除いて、そういった本人希望額物件は歩み寄りがなければまず相手にしないでしょう。会社を引退して田舎暮らしをしたいなと思っている方に巡り会わなければ、多くのそういった物件は、まず売れず、空き家となり、1年も立てば、ボロボロになっていき、設備も使えなくなり、どんどん価値が下がって、さらに売れなくなるという悪循環となるでしょう。そういった意味で、M&Aは会社としての土地・建物・その他の保有資産が明確で企業の本来の価値が算出され、もちろん株の売買で最後に条件なり色は付きますが、完璧とは言いませんがきちんとした評価で売買が可能となるわけです。ちなみに雷鳥は建物の増改築を経ているので一概に言うことはできませんが、建物の半分は築40年を過ぎていました。それが後々様々な課題を産み出すことになりますが、それはまた別のブログで。

 一方、この雷鳥をM&Aで取得した場合、私はいくつかのリスクを背負う必要がありました(ここでは言及できませんが)。
それを考えると、やはりリスクの低い検討していた賃貸での事業の方が良いのではないかと最後まで悩みました。
しかし、雷鳥には、温泉がありました。
私が元々夢であった温泉付きのゲストハウスをポテンシャルの感じる憧れの北アルプスの麓の乗鞍で現実にできるんです。リスクを背負い、傷んでいるところの修繕等の初期投資分を算出し、株式売買の金額等の全体の金額を算出した結果、少し背伸びをして手の届くものでした。

 そして結論を出し、私はリスクはあるものの、夢が実現できる方、雷鳥を最終的に選びました。
M&Aの知識はほとんどなかったですが、兄の知識も借りて、自分で契約書を作成して、なんとか契約合意に至りました。
事業継承日は2015年の11月1日。

 雷鳥に巡り会え、ここで今このように事業がやれていることに、これまでの雷鳥の関係者の皆様にはこの場を借りて改めて感謝申し上げます。
私が皆様にできることは、この雷鳥という名を引き継いで元気に営業していることだと思っています。

 さあ、ここからはいよいよ、実際の起業田舎暮らし(事業継承なので起業ではないですが)が始まるわけです。半年間の試験営業を経て、2016年4月28日に正式オープンを迎え、現在そのオープンから1年と4ヶ月が経過。順風満帆と思っている方も多いようですが、当たり前ですが頭を悩ますことが山のようにあり、課題ありで前途多難です(汗)
収入は人様に言えないくらい低いです(笑)。
知りたい内容ですよね(笑) どうしようかな、そのうち公開しちゃおうかな(笑)。
まあでも皆様ご存知、ほんとに自然体で毎日楽しくやって、海外旅行も計画しちゃっているんですよね。なんでそんなことができるのかをこれからのブログで少しずつ書いていこうかと思います。

 最後に、この事業継承は、今後の日本にとってかなり有効だと思います。若者はいろんなことにチャレンジしたいけど、なかなかゼロから築き上げるのは難しいですよね。中小企業などは後継者、担い手不足で事業が継続できない。そこで事業形態が重なるお互いにとって、ある基準に沿った企業・株式等の売買ができるこの仕組みはもっと有効に活用されるべきだと思います。事業継承補助金もありますしね(また後日記載)!!(リンクは創業・事業継承補助金の内容を確認できるサイトです)
若者向けにそういう支援をやれたら良いなと思っている今日この頃、最近の新しい夢です。そのためにももっと今の事業を良い軌道へ。ちなみにこのブログはそれの一歩であったりします。

 今日は長かった〜〜、ようやくここまで辿りつきました。ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

 秋の紅葉シーズンが近づいております。星空もまだチャンスあり。


9月下旬の乗鞍岳

お陰様で10月前半の個室は平日も含めてほぼご予約を頂いております(ドミトリーはまだ余裕のある日あり)。
紅葉のピークは9月下旬(高山帯)から10月下旬(高原内)の1ヶ月です。

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